鹿児島ふるさとの昔話 「狩人と子の運命」

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鹿児島ふるさとの昔話

発行所 株式会社 南方新社
発行者     向原祥隆氏
編者      下野敏見氏
「鹿児島ふるさとの昔話」より鹿児島県内各地に伝わる昔話をお伝えします。大河ドラマ「西郷(せご)どん」が放映されてから”鹿児島弁”に興味を持たれた方も多いかと思います。”種子島弁”とはまた全然違う方言です。イントネーションをお伝えできないのが残念ですが、文字を読んでお楽しみください。

 

 

狩人と子の運命

 昔、ある所に一人の狩人がおって山に狩りに行ったら日が暮れた。山に泊まっちょったところが近くで声がしたげな。
「おーい、水神どん」
「おーい、山ん神どん」
(よべ)()まれたかぁ」
「うーん、()まれたどう」
「その子の運命はどうやったや」
「その子は十三の年の八月に(はっがち)川捕(かわどい)になってケ死んちゅ運命じゃっどう」
 狩人はこれを聞いて、大腹を抱えていた妻のことが心配になった。やがて、東の空が白むと、急いで家へ戻ってみた。すると、案の定赤子が生まれていたそうじゃ。
 狩人は神様たちの話はこの子のことじゃったか、じゃばって(でも)、カカに言えば、カカが血の(やんめ)(出血などを伴う婦人病の一つ)をすっで、()わんじおろう、と思い、胸に秘めていたそうじゃ。
 時の経つのは早かもんで、その子が十三歳になって八月になった、と。村は、水神祭りで大変(わっぜ)にぎわった、ち。狩人は、
「ああ、いよいよ今日が(あんな)か」
とつぶやいて、その子を庭の柿の木に(くぶ)いつけて(だい)も捕やならんごっしたそや。
一時(いっとっ)したら、その子のカカが現れて()た。
「今日は水神踊いの日じゃ。こん子を踊い見に連れて行かんなならん」
「うんにゃ、今日はこん子は何処(どけ)も出さん」
狩人が言うと、カカは合点せず縄をほどきだした。その時、カカの眼がきらりと光ったのを狩人は見逃さなかった。
「うーん、お(るび)まや、カカどんじゃってん、なんじゃってん、そん子を連れて行けば(おい)鉄砲(てっぽ)()っが」
()た。しかし、それでもカカは連れて行こうとした。狩人は、
「もう、これまで」
と思って、鉄砲を()た。倒れたのはカカじゃなくて、太かガラッパ(河童)じゃったげな。そのガラッパは起き上がって川の方に逃げたそうな。
 こういうわけじゃから、八月には水神祭りを盛んにせんとならんちゅ(こっ)じゃ。