種子島の民話 「あまがくになった息子」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

あまがくになった息子

 夏、小さなアオガエルが、ガクガクガクガクと鳴き始めると、きっと雨になると言い伝えています。
 種子島では、このアオガエルを「あまがく」といいますが、実はこのあまがくは昔は人間だったということです。
 あるところに、父は早く亡くなって母一人、子一人で暮らしている家がありました。
 その子は男の子でしたが、腕白でわがままでしたので、それが母親にとっていつも心配の種でした。寺子屋にやれば、勉強どころかいたずらばかりしてみんなにつまはじきにされ、母親が何か言えば必ずそれに反対するのでした。
 この母親が、寄る年波と息子への心配でとうとう病気になってしまいました。母親は重い病の床で、
「何でもかんでも反対ばかりするが困った子じゃ。おれが死んだら墓に埋めてくれと言っても、言うた通りする気遣いは無か。ま、川のくりぃ埋めてくれぇとでも言えば、墓ぁ埋めてくれるかもしれん。」
と思いました。そこで息子を呼んで、
「おれが死んだときぁ、川のくりぃ埋めてくれ」
と言いました。すると息子は、
「いやぁ、おっかん、わぁが死んだら山のくりぃ埋むる」
とやっぱり反対を言いました。
 こうして、たった一人の息子から見放されて母親はとうとう死んでしまいました。
 こうなるとさすがの息子も、寂しさと悲しさで胸がいっぱいになりました。そして、
「なしかぁ(何故)おれは、おっかんの言うことを聞かんじゃったか、せめて最後の言葉だけでも聞かんばじゃ」
と思って、亡くなった母親を川のくりに埋めました。
 ところが、雨が降ると川の水かさが増して母親の墓がすぐ水浸しになるのです。今では息子にとっての一番の心配は雨が降ることです。
 雨、雨と心配している間に、息子はとうとうあまがくになってしまいました。その証拠に、アマガエルの手の指は人間の指と非常に似ています。
 また、寺子屋にも行かず学問もしなかったので、それを後悔してガクガクガク・・・・・と鳴くようになったということです。