種子島の民話 「吉次郎のねずみ」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

吉次郎のねずみ

 むかし、むかし。
 あるところに吉次郎という、なまけもんの貧乏なおじさんがおりました。いよいよ大みそかになって借金取りが押し掛けてくるというので、岩屋の中に隠れていました。
 すると、岩屋の隅の方でねずみがぞろぞろ集まって相撲を始めたのです。入れ代わり立ち代わり、投げたり投げられたり、大相撲となりました。やがて、
「吉次郎がねずみも出てこぉい」
と、ねずみ連中の呼び出しにこたえてちょろちょろと出てきたねずみはと見ると、それこそ痩せて骨と皮ばかりです。相手はむくむく肥えた大ねずみで、立ち上がったと思う間もなく吉次郎がねずみは他愛もなくころりと投げられてしまいました。
「こらいかん、今とった相手は庄屋のねずみじゃける。あそけにゃ、米もある、金もある、じゃからよう太って力も強かとじゃ。おらぁ貧乏じゃからな。」
 吉次郎は自分のねずみが負けたので悔しくて、生まれて初めて奥歯を噛み締めるのでした。
 とうとう元朝になりました。吉次郎はその日から、生まれ変わったように一生懸命に働きだしました。食うものも食わず節約してねずみにもご馳走しました。
 年の暮れにまた、吉次郎は岩屋に出かけてみました。
 前の年の暮れと同じように、ねずみの相撲が始まりましたが、庄屋どんのねずみが相変わらず一番強く、見る間に何匹も投げ飛ばしました。ねずみ連中が口々に
「吉次郎がねずみも出てこぉい」
と叫びました。すると岩陰から、
「おお」
と力強い声がしました。
 吉次郎がハッとして見守っていると、なんと、丸々と太って立派な姿のねずみが悠々と出てきました。
 その強いこと強いこと、吉次郎が固唾を飲んで見ている前で、ねずみ連中を片っ端から投げ飛ばし、最後に残った庄屋どんのねずみも、すたっと、わけなく投げ飛ばしてしまいました。ねずみ連中はすっかり驚いて、
「去年はあがぁに痩せておったのに、今年ぁなしかぁ(どうして)そがぁに肥えたとか、わごう(おまえは)」
と聞くのでした。すると、吉次郎がねずみはさも得意気に、
「今年ぁ、元朝早々旦那が働きだぁて、米も粟も腹いっぱいご馳走になったもんじゃから、こがあに肥えとう」
と答えました。
「どめぇも(俺たちにも)、そのご馳走を食わせぇ」
とねずみ連中が一緒に言いました。
「よし、食わしょう(食べさせよう)。じゃばって(だけど)、ただにゃぁ食わせはならんから、何か持ってこい」
と吉次郎ネズミは言いました。
 そこでねずみ連中は、すぐ四方に散っていきましたが、やがて、金銀珊瑚などの宝をいくつも持って吉次郎の家に集まりました。
 おかげで、吉次郎は大変な分限者になって一生幸福に暮らしましたげな。