種子島の民話 「犬ちょしこし」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

犬ちょしこし

 むかし、むかし。
 あるところに犬を非常に可愛がる狩人がおりました。そしてまた、飼い主が自慢するだけあって、その犬はたいそう賢く、ことに鹿狩りにかけては並ぶ犬のない上手さでした。
 ある時、狩人がその犬を連れて山に行きましたが、おりから向こうの山に鹿が三匹通るのが見えました。喜んだ狩人は三匹の鹿を指しながら犬に、
「向こうの山に鹿が三匹、犬ちょし、ちょし」
と言いました。
 犬は、一目散に向こうの山に走って行きましたが、難なくその三匹の鹿を食い倒してきました。狩人は大喜びで重さなどはいとわず獲物を家に持って帰りました。
 ところで、その隣も狩人でしたが、隣の狩人が鹿三匹を獲ったのを知って、うらやましくてたまりません。早速隣へ出かけて行って、
「俺ぇ、わぁ(お前)の犬を貸せ、俺も狩りぃ行たてみらんばじゃ」
と頼みました。しかし、この狩人の意地悪なことを知っている隣の狩人は、可愛い犬を貸したくありません。だが、
「なぁ、貸ぁてくれぇや、わぁの犬を」
とどうしても聞き入れません。
「しょうがなこう、そら連れて行けや」
と狩人は、しぶしぶ貸してやりました。
 隣の狩人は、喜んですぐ支度をすると、犬を連れて山に出かけました。
 折よく、向こうの峰に鹿が三匹通るのが見えました。そこで、
「向こうの山に鹿が三匹、犬ちょし、こし」
と命じましたところ、犬はいきなり狩人の腰に食いつきました。
 狩人は、自分が「犬、ちょし、腰」と言ったことは忘れて、かんかんになって怒り
「鹿ぃ行かんじぃ、人ぇ食らあつく犬ちゅうがあるもんか」
と腹立ちまぎれに、犬を打ち殺してしまいました。
 犬の飼い主は、いくら待っても犬が戻ってこないので、たまりかねて隣の狩人の所に行き、
「犬ぁどがぁしたか」
と尋ねました。隣の狩人は平気で、
「あがぁな、なまきっさなか(つまらない)犬ぁ又と居おろうかい。鹿ぃにゃぁ行かんじぃ、俺の腰ぃ食らぁちいた。そいで腹がきしわぁて(腹が立って)、打ち殺ぇてしもうとう」
と言うのです。飼い主は、
「そんたぁ、わぁが犬ちょし、ちょし、と言わんじぃ、犬ちょし、こし、と言うたから、腰ぃ食らぁちいたとじゃ。ごうらしなげぇ(かわいそうに)」
と涙ぐんでしまいました。そしてすぐ山に行き、犬の死骸を持ってきて、家の庭に埋めてやりました。
 ところがそこに竹の子が生えて、 ずんずん伸びていきます。見ているうちに、雲を突き抜けて天の国に届きました。しかも、そこがちょうど天国の金蔵で、その床下を突きほがしたのです。
 飼い主の家といわず庭といわず、天国の銭がちりんくゎらんと落ちてきて、たちまち一杯になってしまいました。
 隣の狩人は、またそのことを知ってうらやましいやら腹が立つやらで、飼い主の所に出かけました。そして、犬を埋めたところの土をもらってきて、自分の庭におきました。すると、やはりそこから竹の子が生えてずんずん伸び、瞬く間に天まで届きました。ところが、そこはちょうど天の国の便所だったからたまりません。その竹を伝わって天の国の糞がどろどろ流れてきて、狩人の家は、庭も部屋も糞ばかりになってしまいましたげな。