種子島の民話 「クジラとイノシシ」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

クジラとイノシシ

 昔は、クジラは陸に、イノシシは海に住んでいたんだそうです。まあ、想像してごらんなさい。あの大きな体のクジラが、獲物を追って、野原や山を歩き回る様子を。
 一度クジラが通ると、林は押し倒され、川は堤が崩れて洪水になったりするので、これには山の神様も、ほとほと困ってしまいました。
 ある日、クジラがすばしっこいウサギを追いかけて逃げられ、地団太踏んで暴れているのを山の神様は腕を組んで眺めていましたが、
「そうじゃ、クジラは海に置いた方が良っかもしれん。海の神様と相談せんばじゃ(相談しなくては)」
と思いつきました。
 早速海の神様を浜に呼び出して、
「クジラを今のまま陸ぁ置ぇておいては、俺も困るしクジラもごうらしかが(かわいそうだが)海におる誰かと換えてはもらえんろうか」
と相談をかけました。海の神様はしばらく考えていましたが、
「そうじゃ、イノシシが泳ぎがへたくそで、ごうらしかことじゃと思うとった。よし、クジラとイノシシを換よう」
ということで、相談はすらすらとまとまりました。
 さて、こうして陸に上がったイノシシは、食べなれたエサといえばシラタガニくらいしかありません。すっかり腹を空かしたイノシシは、山の神様の所に行って、
「神様、もちっと何か良かものを食べさしておくじゃり申せ」
と頼みました。山の神様は、
「じゃぁ、おまやぁ海におった時は何を好きで食べとったか」
と尋ねました。
「おらぁ海におる時ゃ、蛇に似たエラブウナギを食べとり申した」
とイノシシはエラブウナギの味を思い出しながら答えました。
「それじゃぁ、お前にはシラクチ(まむし)をやろうわい」
こう言って、山の神様はイノシシにシラクチを食べることを許しました。
 イノシシはシラクチを一口食べてみて、そのうまさにすっかり満足しました。それからは、イノシシはシラクチを見ると、その周りを七周りまわって大喜びで食べるのです。
 一方、海に行ったクジラはどうかと言いますと、あの大きな図体も海の中では身軽く動くのですっかり嬉しくなり、大喜びで大きな魚を追いかけまわしますので、海の中は大騒ぎになりました。とうとう海の神様は、
「お前がその図体で、魚という魚を追いかけまわしてはどうもならん。今日からはお前はイカより大きい魚を取って食ってはならん。もしこれを破ればお前はまた陸に追い上げるぞ。そうじゃ、お前にはあのキビナゴが一番良か餌じゃ」
と言い渡しました。
 しかし、キビナゴといえば海では一番小さな魚ですから、クジラのおなかはなかなか一杯になりません。そこで、思わずイカよりも大きな魚を食べると大変です。たちまちシャチという恐ろしい魚がやってきて、クジラの体を縦十文字に切り裂くのです。
 シャチに追われると、クジラは仕方なく浜や磯に逃げ上がるのです。海の神様が言われた罰はその通りなのですね。