種子島の民話 「蛇の性」

種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

蛇の性

 むかしむかし、ある村に大変仲の良い若夫婦がありました。
 ところが、いつしか村人たちの間にこんな噂が広がっていきました。
「あん女子(おなご)は蛇の性じゃちゅうわ。その証拠には、夜は角を出ぁちぇ、寝ちょるちゅう。」
 狭い村のことですから、そんな噂が間もなく男の耳にも入りました。しかし、初めのうちはつまらん村人の作り話だと何とも思いませんでした。
 しかし、村人の噂をあちこちで聞いているうちに、だんだん恐ろしくなり、女と別れることを考えるようになりました。そう思えば、食事の時も女は味噌汁を吸うときアッと驚くように長い舌をペロリと出すのです。これはやっぱり村人の噂の通りだったかと、男はとうとう女と別れる決心をしました。
 ある夜、とうとう男が別れ話を持ちかけました。すると女は、
「うんにゃ(いいや)、おらぁ、絶対そがぁな話は聞かん」
と言い張って聞きません。女の顔はいつになく鋭く時々キラリと光る眼はちょうど、蛇が獲物を狙う時のように気味悪く見えます。
 男はその目でにらまれると、思わず叫び声をあげて逃げ出しました。
「た、た、助けてくれぇ。」
 月光を浴びて白く輝く砂浜を、男は一散に走りました。転んでは起き、転んでは起きして、やっと渡し舟のある川までたどり着きました。
 その舟は、両岸に張った綱を手繰り寄せて乗る小さな渡し舟でした。急いで綱を手繰り寄せて、向こう岸に渡るや否や、男は懐から小刀を出して、ザックと綱を切り捨てました。
 どこをどう走ったかわかりません。時々振り返ってみると、髪の毛を振り乱した女は、やはりどこまでも追いかけてきます。もうこれでおしまいだと何度も思いましたが、根限りの力を出して、田をよぎり、林を抜けてひた走りに走りました。
 と、杉の木立の向こうに、ぼうっとかすむ灯が見えました。男はそれこそ地獄で仏に出会った心持ちで大急ぎで灯の方に向かって走りました。
 幸いなことにそこは小さな山寺でした。夢中で戸を叩いて開けてもらうと、あえぎあえぎ男は坊さんにわけを話して、かくまってくれるように頼みました。
「そりゃぁ、心配なことじゃろう。こけぇにゃ(ここには)良か隠れ場所も無かばっちぇ、あん鐘の中が良かろうから。」
 坊さんはそう言うと、裏庭の鐘楼へ男をみちびき鐘を地面におろして中に男を隠しました。
 一方、女は男の姿を見失うまいとものすごい勢いで追いかけてきます。
「こらぁ、とうとうおいが正体を見破ったなぁ。もう、わごう生かぁておきぃならん」
 長い真っ赤な舌を炎のようにめらめらと風になびかせ、耳元まで避けた口をいっぱいに開いて、山道を叫びながら追ってきます。月の光の中に浮かぶその姿は、ぞっとするような恐ろしさです。時々振り乱した髪の間から、二本の青い角がにゅうっと伸び縮みしています。間もなく女も寺にやってきました。
「こけぇ、男が来んじゃったか」
「うんにゃ、来とらん」
「俺ぇ、嘘を言うちぇもだめじゃ。男のにえぇが(匂いが)しおる」」
 女は坊さんをじろりと睨むとアッと思う間に大蛇の姿に変わり、ザザザザッと気味悪い音を立てて、あちらこちら寺の境内を探し始めました。やがて、鐘に気づくと
「これじゃ。ここより他に隠れる所は無か」
 ぐっと鎌首を立てて鐘を睨んでいましたが、鐘を七巻きに巻いて、じりじりと絞めていきました。鐘はみるみる、真っ赤に焼けて中の男も一緒に溶けてしまいました。
  ザザザザザッ
 不気味な地響きを残して、大蛇は木立の中に見えなくなりましたげな。