種子島の民話 「鬼ヶ島の目一」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

鬼ヶ島の目一

 むかし、ある部落に両親に先立たれた娘が細々と暮らしていました。年頃になっても誰も嫁にもらい手がありませんでした。
 ある時、娘は山に椎の実を拾いに行きました。ところがその頃は鬼が居るころで、しかもその時鬼ヶ島から赤鬼が籠を担いで娘を盗みに来ていたのでした。
 娘は山でその鬼に見つかり、あっという間もなく籠の中に押し込められてしまいました。
 娘は籠の中で叫んだりもがいたりして助けを求めましたが、鬼の姿を見ては誰一人手出しする者はありません。鬼は娘を入れた籠を軽々と背負って海岸に行き、つないでおいた黒舟に乗せました。
 鬼はその舟についているネジを巻きましたが、その舟はネジを巻くと千里も走ることができるのでした。やがて舟は鬼ヶ島に着きました。
 娘は鬼達から大変にもてなされ、毎日毎日をまるで女王のように過ごすことができました。
 しかし、日が経つにつれだんだん故郷のことが恋しくなりました。つい海辺に出ては、沖の方を眺めていました。が、そのうち鬼と娘の間に男の子が生まれました。娘は生まれた子を見てびっくりしました。目が一つしかないのです。でも、生まれた以上は、と心を決めて娘は母親としてその子を大事に育て、お祝いをして目一と名付けました。
 目一は病気一つせず、すくすくと大きくなりそれに人並み外れてはばしくて(頭が良くすばしこくて)、何でも自分でやる子でした。母と子と二人の時に目一は、
「お母さんの国に帰ろう」
と言いますが、母の方は目一が人に馬鹿にされ、笑いものにされるのを案じて
「お前はお母さんの国がどんな国か知らないのでそう言うが、帰ってもいい事は無か」
と言って、聞きませんでした。それでも目一は、何度も何度も母に頼むのでした。母もとうとう根負けして
「それじゃあ、帰ることにしよう」
と決心し、それから鬼たちに気づかれないように準備にかかりました。途中の食べ物をそろえたり、着物に銭を縫い込んだり、その他いろいろ準備しました。
 鬼たちの留守の時、母と目一は海岸に出ました。そこには黒舟が五隻浮かんでいます。ひとつの舟はネジを巻くと千里走り、次のはそれよりももっと遠くまで走るのです。
 目一は、母の国は遠いところと聞いているので、万里より遠くまで走る舟で行こうと言ってその舟に乗って無事母の故郷に帰りつきました。
 目は一つでも目一はとてもしっかりした若者でしたので、母と二人幸福に暮らしたということじゃ。