種子島の民話 「地獄の三人」

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種子島の民話

発行所 株式会社 未來社
発行者    西谷能英氏
編者     下野敏見氏
日本の民話34 種子島の民話第二集よりお伝えします。

 

 

地獄の三人

 昔、一人の男が旅をしていました。
 途中で、もう一人の男と道連れになりました。そこで前の男が聞きました。
「おまやぁ(お前は)何をして歩く人か。」
 もう一人の男が、
「おらぁ医者をして人の悪かところを治して渡世しとるが、おまやぁ何をしに歩く人か。」
と聞きました。前の男は、
「おらぁ、まじなぁ(呪い)をして、人の悪かところを治して渡世しとる。」
と答えました。二人がこんなことを話しているところに、また別な男がやって来て道連れになりました。
 その男に二人が聞きました。
「おまやぁ、何をしておる人か。」
するとその男は、
「おらぁ、軽業なんどして、人を楽しませて渡世して歩きおる者じゃ。」
と答えました。
 こうしてすっかり心を許しあった三人は、いろいろ世間話をした挙句、
「こうした三人でも、一緒に組めば何か良か事もあったもんにゃ(あるだろう)」
と互いに元気づけるのでした。一人が、
「地獄極楽というところへ行けば、三人組めば何か良か事があるかもしれん。じゃから、早か人から三途の川に待ち合わせることにしようじゃなっか。」
と言い出しました。別の二人も声をそろえて、
「よかろう、よかろう」
と賛成しました。
 いつの間にか一年経ち、二年経ち、そのうち一人が死にました。
 死んだ男は三途の川に行って、
「ぼちぼち誰か来るじゃろう」
と思いながら待っていると、また一人やって来ました。
「もう一人は、わざい(大変)遅かが、何をしよるじゃろうか(何をしているだろうか)」
と噂しあっていると、やがて残りの一人もやってきました。
 こうして約束通りそろった三人は三途の川を渡っていきましたが、ふと向こうを見ると、話に聞いている閻魔大王が恐ろしい姿で立っているのです。
 大王は三人を見ると、割れ鐘のような声で、
「お前達ゃ、生きてる間は一体何をしとったか」
と聞きました。
 三人は次々に答えました。
「おらぁ、医者をして人の悪か所を治してやっとり申した。」
「おらぁ、まじなぁをして人の悪か所を治してやっとり申した。」
「おらぁ、軽業をして人を楽しませて来申しとう。」
聞き終わって大王は、
「そいじゃ、一人ひとり判決をするからよく聞け。医者は良か薬ぁ飲ませんじぃ、悪か薬を飲ませて高か代金を取った。じゃからおまやぁ地獄にやる。まじない人は人をまじない呪うて悪くなした。じゃからお前も地獄行きじゃ。軽業師は人の目をくらまして銭を取った。じゃからお前も地獄行きじゃ。」
と、三人とも地獄に送られてしまいました。
 地獄では、大釜に湯がぐらぐら沸き、湯気がもうもうと立ち込めています。あいh三人は思わず顔を見合わせて後ずさりしました。が、三人の中のまじない師が、
「お前達ゃ、こけぇ(ここで)ちょっと待て」
と言って、一人地獄の釜の前に行ってまじないを始めました。そして、しばらくしてから、
「さあ、今入れ」
と言うので、まじない師を先頭に医者と軽業師が入ったら湯は丁度いい湯加減になっていました。
「こりゃぁ、なかなかえぇ気持ちじゃ。地獄というところは悪かところと思っておったが、俺達が来るちゅうて湯まで沸かぁて待っとってくれたけりゃぁ。聞いとったところよりもわざい良かとこじゃけりゃ。」
三人は口々にこう言いながら、思う存分湯を使って娑婆の汗と汚れを洗い流しました。
 これを見た閻魔大王は、
「あの熱か湯に入って、喜んで湯を使うとる。こらぁ大変な奴らじゃ。これじゃぁ、いけんわい。」
と言って、今度は三人を湯からあげて、ぴかぴか光る剣をさかさまに植えた剣の山に登らせることにしました。
 この剣の山を見たときはさすがの三人も足が震え、脂汗がたらたらと流れるのでしたが、何か思い当たった様子の軽業師が、
「ちょっと待っとれ」
と二人に合図しました。そうして、懐からから糸を取り出して剣の山に投げました。すると、赤いから糸はするすると伸びて剣の先に一本一本巻き付いて、こちらから向こうまで見事に繋ぎました。軽業師は二人に向かって、
「医者は俺の右の肩に乗れ、まじない師は俺の左の肩に乗れ」
と言いました。両肩に二人を乗せた軽業師はから糸を伝うて歩きながら、
「いざ地獄の鬼も見れ、極楽の鬼も見れ」
と大声で叫んで踊って見せました。
 閻魔大王には、それが剣の上で踊っているとしか見えないのでいよいよ驚きました。
「えっ、早あがぁな真似をしとる。こらぁ釜の中ぁ入っても湯あみをするし、剣の山に入らせても踊りはするし、こりゃぁ始末に負えん奴らじゃ、こらぁっ、三人とももう降りて来い」
と、苦々しそうに怒鳴りました。三人は剣の山を降りて、大王の前にずかずかと来ました。大王はますます腹を立て、
「わんたちゃぁ(お前たちは)、全く手に負えん、この上ぁ俺が飲んでくるる」
こう言うと、いきなり三人を一緒につまみあげて大きな口の中にポイと放り込みました。三人は滑るように胃袋の中におちました。
「こらぁ、熱か、こらぁたまらん」
と、すっかり参りました。が、今度は医者が言いました。
「二人とも、もちっと辛抱しとれ」
 そして、胃の中を何か探して歩き回っていましたが、たとえ藪医者でも医者は医者です。やがて一本の筋を探し出して、
「さあ、これを引け」
と叫びました。
「こらぁ何の筋か」
と二人が尋ねると、医者はニヤリとして答えました。
「大王の疝気の筋じゃ。」
「うわっ、こら面白か」
と大喜びで、
「うんとこら、えいやこら」
と力いっぱい疝気の筋を引きました。
 閻魔大王は急に下腹が痛み出し、しかも、時とともに痛みはひどくなってくるので、あっちへごろごろ、こっちへごろごろと転げまわりましたが、痛みは止むどころではありません。
「うわっ、こら痛か、たまらん、たまらん。俺の腹の中さなぁ入った三人の奴らの仕業に違いなか、こら鬼ども、早う薬を持って来い。」
 大王は見栄も外聞もなく怒鳴り散らしました。鬼が慌てて薬を持ってきました。
 大王はそれを一息に飲みました。ところがそれは下し薬でしたから、腹の中の三人は、たちまち外に下ってしまいました。やっと正気に返った大王は、
「もう、わんたちゃぁ扱ぁでけんから、三人とも極楽さなぁ早う行きやれ(早く行ってしまえ)」
と言いました。
 そこで三人は思い出の地獄を出て極楽に行き、毎日を楽しく暮らしたということじゃ。