鹿児島ふるさとの昔話「どもこもならん」

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鹿児島ふるさとの昔話

発行所 株式会社 南方新社
発行者     向原祥隆氏
編者      下野敏見氏
「鹿児島ふるさとの昔話」より鹿児島県内各地に伝わる昔話をお伝えします。大河ドラマ「西郷(せご)どん」が放映されてから”鹿児島弁”に興味を持たれた方も多いかと思います。”種子島弁”とはまた全然違う方言です。イントネーションをお伝えできないのが残念ですが、文字を読んでお楽しみください。

 

 

どもこもならん

 昔、「ども」ちゅう人と「こも」ちゅう人がおらって、(じゅっ)比べをしやったげな。どもどんがこもどんに、
(おい)がお(まい)のそん足を()っ切っても、継ぎが(ちげ)ないか」
()たち。そしたや、こもどんは、
「うん、継ぎが(ちげ)なっとよ」と言た、と。
そいで、本当に(ほんのこて)()っ切ったら、こもどんは、たっちんこめ(すぐに)()だ、と。
ほいから、こんだ(今度は)こもどんがどもどんに、
「お前のそん手を()っ切っても、継ぎが(ちげ)ないや」
と言うたとこいが、どもどんは
「うん、そんた(それは)(もや)しこっじゃ。なっとよ」
と言たち。ほいで、打っ切ったや、どもどんも、たっちんこめ切った手を()だと。
「こらもう、勝負に(しょび)ならん」
と言て、二人で相談して互いの首を打っ切いことになって、「一、二、三」
の掛け声で互いの首を切った、と。とこいが(ところが)これには二人とも、どもこもならんで、ケ死んでしもうたて。
「どもこもならん」というのは、この話からはじまったそうじゃ。後先(あとさっ)も考えんで、物事を進めるな、早まるな、という例えじゃ。

 

んぼおるかい

 あるところに御尉(おんじょ)(爺さん)と御姥(んぼ)(婆さん)が仲良く暮らしておったち。二人は、
(だい)が先に死んでも棺桶に入れて納戸に置こう。墓には()けんたっど」
と、話していたと。そのうち、おんじょがケ死んで、ほっしぇ(それで)棺桶は納戸に置いたて。ところが夜になると、毎晩声がした。
「んぼ、おるかい、んぼおるかい」
「うん、おるおる」
そしたやある晩、茶碗売いがやって来て
「今夜、宿を貸してくれんか」と。
「そら、宿は貸すこた貸すが、晩になればものを言うもんがおるから、返答(へんと)をしっくれんね」と。
「はあ、そら、返答をすっどこいじゃね(すればいいんだね)」
「ほいなあ(それなら)、(あた)(とない)風呂入(ふろい)け行たっくっで、返答を頼んど」
んぼはこう言て隣に行った、と。そしたや、声がして
「んぼ、おるか、んぼおるか」と。
「はい、おります、おります」
茶碗売いが答えると、
「おかしかどねえ。声が(ちご)ようじゃが」
と言て、棺桶が納戸から出て(まく)ってきた。
「うわーっ」
茶碗売いは、魂消(たまが)って、(おろ)だ、と。そして、仏壇(ぶっだん)ににじりよって、
南無阿弥陀仏(なんまんだあ)、なんまんだあ、なんまんだあ、・・・・・・・・」
と、一心に唱えたそうじゃ。気が付いたら棺桶は納戸に戻っていた、と。
 後で、茶碗売いから話を聞いた御姥(んぼ)は、寺の和尚さんを頼んで、御尉(おんじょ)の棺桶を墓に()けたげな。
そいからもう御尉(おんじょ)は出てこんようになったそうじゃ。